歯の健康づくりに役立つ知識

歯周病治療の前に知っておきたい大切なこと

歯科の二大疾患と言われているむし歯と歯周病。むし歯は歯の病気ですが、歯周病は文字の通り、歯の周りの組織の病気です。歯の周りの組織は歯周組織と呼ばれます。歯周病は、常在細菌の一部と自分のからだの抵抗力のバランスが崩れることによって歯周組織の破壊を続けることで起こります。歯周病の細菌とのバランスを見直して、それを維持し続けていくことが歯周病の治療で重要です。

歯周病の進行は30代と50代で急に悪化します。歯周病の指標となる歯周ポケットの深さや状態は20代と50代で大きく変化し、50歳を過ぎると歯を失いはじめます。歯周病は年齢によって悪化しやすくなっています。口腔内の環境が変わり始める10代から歯周病について知り、歯周病予防のための習慣づけをしていくことが大切です。

歯周病の分類:歯肉炎と歯周炎

歯周病は「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられます。軽度、中等度、重度という分類で言われることもありますが、歯肉炎は軽度、歯周炎は中等度から重度といったイメージです。

歯肉炎とは

歯肉炎は歯茎だけが炎症している状態です。炎症が起こっている原因歯ブラシを頑張れば元の健康的な歯茎に戻ることができます。

歯周炎とは

しかし、歯肉炎を放置してしまうと炎症が歯茎だけにとどまらず、様々なところに影響が広がってしまいます。それが歯周炎です。歯茎が下がり、骨が吸収され、膿や血が出て口臭が強くなるなどの症状がでます。歯を支える骨がなくなってくると歯がグラグラして、最終的には抜け落ちてしまいます。歯の位置が不安定になるので本来の位置から動いて歯並びが悪くなることもあり、食べ物をしっかり噛むことができません。

基本的に歯周病はゆっくりと進行していくことが多いのですが、喫煙や糖尿病などのリスクを持っていると進行が早まってしまいます。さらに怖いのが「1割の人は急速に進行するタイプ」であるということ。若いうちから歯がなくなってしまう人や、進行が通常よりもひどい人は早めに歯科医院を受診ください。

歯周病が起こる原因

歯周病細菌の影響で歯肉に炎症が起こると細胞間のネットワークが機能しはじめます。最終的に歯周病を悪化させるタンパク質分解酵素が多く分泌されたり、破骨細胞が活性化されて骨を溶かしてしまったりします。つまり、歯周組織の破壊を予防したり停止させたりするためには歯茎の炎症を解消することが一番です。そのためには患者さん自身によるホームケアはもちろん、歯科衛生士による歯茎の下の施術を確実に行うことが求められます。

この細胞間のネットワークの機能は個人によって起こりやすさが異なります。細菌性沈着物(プラークや歯石)の量と歯周組織の破壊程度が必ずしも相関しないのはこのような理由です。

歯周病のかかりやすさは遺伝的に引き継がれる可能性があります。糖尿病や喫煙などのリスクがなく、プラークや歯石の量が少ないにも関わらず、歯周組織が大きく破壊されているような患者さんは早期に歯科医院へ行きましょう。

1.バイオフィルム

バイオフィルムとは固体と液体の境界に存在する細菌のことです。歯周病の悪さをするプラークは、歯(個体) と唾液(液体)の境界に存在します。例えば、台所の三角コーナーや池などの石のぬめりなどもバイオフィルムのひとつです。

細菌には、歯に付着する能力を持つもの、歯には付着できなくてもその細菌と手を繋げられる能力を持つものなど様々な特徴があります。あらゆる菌種が集まってきて細菌の集合体が形成されます。この集合体は菌体外多糖のバリアで覆われていて、薬剤や免疫細胞の攻撃から身を守っています。

つまり、バイオフィルムを除去してない(=歯磨きしてない)状態でうがい薬などを行っても効果がないということです。浮遊している細菌には効くものの、そうではない細菌に対しては、1/250程度の効果しかないという研究もあります。プラークをうがい薬だけで落とすような広告はよく見かけますが、薬剤のみで除去することはできません。ご自身の歯磨きでも歯科衛生士が行うプロフェッショナルケアでも、機械的に除去しする重要性が明確になりました。

うがい薬だけで済ませたり、入れ歯の人が義歯用ブラシで清掃せずに洗浄剤につけているだけでは意味がないことがご理解いただけたでしょうか。細菌をバイオフィルム状態から浮遊状態に変化されば、うがい薬や洗浄剤の効果が十分引き出せます。

2.プラークの成熟

プラークはたくさんの菌種類から構成されていて、いくつかの段階を経て成熟していきます。
①歯面に付着する能力を持った菌種が歯面に定着
②歯面には付着できないが既に歯面に付着している菌種と結合することで積み重なる
③その他の菌種が次々とプラークの一部として集まってきて層をつくる

プラークは層が厚くなるほど悪さをします。

歯茎の下のプラークは3つのゾーンに分かれます。
①歯面に付着しているプラーク
②歯茎に接触しているプラーク
③上記の間にある非付着性のプラーク

プラークの蓄積過程や特徴を知っておくとどんな治療方法が重要なのかわかってくるでしょう。

3.歯石

歯石はプラークが石灰化したものです。歯石は、石のように細かな穴があり、表面がデコボコひています。歯石が沈着していることで、適切な歯磨きができなくなったり、プラークが停滞しやすくなったりするため、歯石の除去は歯周治療の中心となっています。

歯石は歯茎を境目にして縁上歯石と縁下歯石に分けられます。
縁上歯石の特徴は、比較的やわらかく、簡単に除去しやすいです。黄白色〜クリーム色をしています。唾液由来なことから、唾液腺がある下の前歯の裏側と上の奥歯の頬側に付着することが多いです。

一方、縁下歯石は強固にこびりついています。縁上歯石は歯の上のほうに付着しますが、縁下歯石は根っこのほうにこびりつき、除去するのは困難です。歯茎のなかに付着しているため目で見ながら取り除くことができず、熟練の歯周病専門医でさえ、取り残しが多くなるとされています。歯肉溝滲出液から供給されるため、色は灰色〜黒色をしています。

〈人と常在細菌のバランス〉
常在細菌叢(=マイクロバイオーム)という概念があります。人と常在細菌は共生関係にあり、両者が一体となって一つの個体をかたち作っています。一人の人と共生する細菌は人の持つ様々な条件によって選択されます。
したがって、異なる人で全く同じ常在細菌を有するということはあり得ません。この多様性は指紋のように個人識別に用いることができるほどだとされています。

人に何らかの変化が起こると共生している常在細菌叢の構成されている菌種のバランスが崩れてしまうことがあります。それによって、健康状態に変化を及ぼすことも。

〈歯周治療におけるアプローチ〉
よって、歯周治療では特定の菌種を抗菌薬などを使ってお口から根絶することは現実的なアプローチではありません。通常の治療で歯茎の常在細菌叢を好ましい状態に戻します。歯茎のなかとご自身の抵抗力とのバランスが取れてる状態を維持し続けることが重要なのです。

歯磨きや歯科医院でのメンテナンスなどで、歯茎のなかのプラークが成熟しないように歯面から除去すること。そして、生活習慣や健康状態のモニタリングが必要です。

歯周病になりやすいリスクファクターとは

感染のしやすさは歯周組織の破壊が起こりやすい遺伝的な要因と、好ましくない生活習慣(喫煙や糖尿病など)のような環境的・後天的要因に分けられます。

組織が破壊される過程はすべての患者さんで共通ですが、患者さんが抱えているリスクファクターによって病態が異なります。歯周病の発症が細菌の攻撃を増強します。炎症状態が続くことで細菌は栄養を獲得し、増殖してさらに症状が進むという悪循環が成立してしまうことになるのです。

遺伝的リスクファクター

プラークや歯石などがあまり見られないにも関わらず、それに見合わない大きな破壊が起こっている患者さんは病気のかかりやすさが高いでしょう。特に歯石の沈着がほとんど見られない一方で歯槽骨の破壊が認められるような場合、組織の破壊が急速に進んだことが推測されます。このような方は単に細菌が引き起こしたというよりも組織がオーバーに反応してしまったと考えられるでしょう。

そしてこの体質は遺伝的に受け継がれている可能性が高いのです。特に両親に、若い頃から歯周病に苦労したかどうか確認してみてください。
歯周病が進行しやすい患者さんであっても他の人以上に気をつけていれば予防することは可能です。早急に歯医者へ行き、メンテナンスをして発症を事前に防いでいくことが求められます。

後天的、環境的リスクファクター

①歯に関わる要因

歯の形態は歯周病に影響を与えることがあります。歯並びがよくないと磨き残しやすいため、歯肉炎を発症しやすくする要因です。歯根の凹凸も歯茎の付着が喪失しやすく、歯周病の進行によって露出すると細菌の生息部位となります。また、適合の悪い被せ物や詰め物もプラークが停滞しやすくなるためリスクファクターのひとつです。

②全身に関わる要因

精神疾患やご自身の健康観、歯磨きの習慣やメンテナンスに対して積極的か。喫煙や飲酒、ストレスなども挙げられます。

喫煙

喫煙することによって以下のようなことが歯周病になりやすくなります。

  1. 歯周病原性細菌を増殖させる一助となる
  2. 毛細血管を収縮させ、炎症の徴候が隠されてしまう
  3. 免疫系の活動を抑制する
  4. 組織の修復に関わる線維芽細胞の機能を障害する
  5. ニコチンが沈着することで体が阻害され、プラークが付着しやすくなる

喫煙は歯周炎の最大のリスクとして世界的にも言われています。禁煙は歯周治療の一部と言っても過言ではありません。喫煙の蓄積本数が多いほど歯周組織の破壊が進んでいきます。歯周治療前後のプ歯茎の変化は喫煙者では非喫煙者よりも芳しくありません。

歯の喪失が最も多い人たちの喫煙蓄積本数は約32万本を超えています。そういった方は10年当たり平均2.4本の歯を喪失しています。喫煙は口腔内の健康を脅かしているのです。

歯周病進行度を比較すると、喫煙者では中等度以上の歯周炎が非喫煙者の約2倍になっています。歯周ポケットも深くなっていて、抜歯になる人も多く存在します。

モバイルバージョンを終了